サージェリーファースト・アプローチについて

はじめに

術前矯正を行わずに手術を行う方法、サージャリーファースト・アプローチ (SFA)は、ここ数年の間に発達した新しい方法です。
 
これまですでに、台湾や韓国の大きな骨切り専門施設において5,000例以上行われており、従来の術前矯正を行う方法と、最終的な仕上がりの結果に差が無いことが示されています。また矯正による歯の動きが、従来法に比べてとても早いことも特徴のひとつです。
 
ただ、この SFA を行うにはいくつかの条件が必要で、それらを満たさないとよい結果が得られないだけでなく、後遺症を残すような場合もありますので、正確な診断と手術計画、そして確かな技術が必須になります。

従来のアプローチ

 
これまでの顎変形症手術では、手術後に上下の歯がきちんとかみ合うように術前矯正を行う必要がありました。
 
*1
まず手術後によいかみ合わせとなるような歯列を計画し、それに向けて術前矯正を行います。このため本来噛めていた状態から、だんだんとかみ合わせが悪くなる方向になります。また唇や顎の形も悪化してゆきます。
*2
1~2年の術前矯正が終了した段階で手術を行います。この段階で、一気にかみ合わせと顔貌が改善します。
*3
術後に微調整を行う必要があり、数ヶ月の矯正を行い、治療が終了します。
ではなぜ従来法では術前矯正が必要なのでしょう。
 

1.骨切り後の顎をワイヤーや弱いプレートで固定するため、骨切り部が不安定です。このため術後には、かみ合わせがきちんとあった状態で安定している必要があります。そうでないと、すぐずれてしまう可能性が高くなります。また顎間固定も、4~6週間前後の長い期間が必要です。

2.術前矯正が終了した後、上下の歯のズレ具合を実際に確認してから、骨の移動量を計算し、それから顔のバランスを勘案して計画を立てます。そしてこの計画に合わせてバイトスプリントというものを作成し、これにピッタリ合わせるように手術を行います。つまり術前矯正が終了しないと、手術自体ができない、というプロセスです。
 

サージェリーファースト・アプローチ

*4
まず手術を行い、上顎、下顎をよい位置関係に移動させます。したがって、この時点で顔のバランスが改善します。ただしかみ合わせは、悪い状態です。
 
*5
術後に矯正をスタートします。強く噛めない状態のため矯正の動的治療によく反応し、従来法に比べて速く歯が移動します。
 
 
 
なぜ SFAでは術前矯正が不要なのでしょうか。

1.近年、さまざまな種類のチタンプレートが登場し、また術式も大きく改良されたため、骨の固定性が格段に向上しました。このため、従来のワイヤーを使った顎間固定から、柔らかいゴムに変更する施設が増えています。あるいは顎間固定をしても、2週間前後と短縮される傾向にあります。(実際、当センターでも10年程前までは骨をワイヤーで固定し、4~6週間の顎間固定を行っていましたが、現在はプレートで固定し、顎間固定は行っていません)
つまり、骨の固定性がアップすることによって、術後の骨の後戻りのリスクが大きく減少したということです。
SFA では、術後に不安定なかみ合わせになりますが、強いプレート使って確実に骨を固定します。また骨切りの方法もハンサック法という、矢状分割法の中でも術前の筋肉運動の影響を受けにくい方法を選択しています。

ですから、術後に元のかみ合わせにどんどんずれて行ってしまう、という心配がほとんどなくなりました。

2.SFOAでは、最終的な骨の移動量の決定を、手術中に行います。もちろん術前にセファログラム分析を行ってある程度の移動量は決めてありますが、最終的には皮膚を通した「顔」のバランスを評価して、その場で微調整を行います。これは、シングルスプリント法と呼ばれ、術前矯正を行わない SFA では必須のテクニックです。シングルスプリント法を用いることで、術前矯正を行っていなくても、最もよい顔のバランスが得られる位置に顎骨を移動・固定することが可能になったのです。


サージェリーファースト・アプローチ(SFA)のメリット

矯正期間が短縮できます

この理由は、手術後に歯がほとんど噛めない状態に置かれるためです。歯は自然にかみ合わせが安定する方向に移動しようとする、生理的な性質があります。矯正装置を付けて噛む位置が少し出てくると、そこに合わせるように歯が自然に移動を始め矯正装置がそれを補助する形になりますので、結果的に矯正が無理なく早く終了できるのです。

術前矯正の間に見た目が悪化することはありません

反対咬合では、術前矯正の過程でいったん反対咬合を悪化させる方向に歯を移動します(デコンペンセイト decompensate と言います)。このため長い術前矯正の間、反対咬合が悪化し見た目が次第に悪くなります。SFA ではこうしたことは生じません。

まず始めに見た目が変化します

手術でバランスの取れた骨格の位置に顎を移動しますので、輪郭などの見た目がまず変化します。

見た目の変化がゆるかやです

骨格のバランスを整えた後に、矯正で歯列を合わせていきますので、見た目の変化が緩やかです。従来法では、手術後にデコンペンセイトされた反対咬合が一気に正常咬合になりますので、顔の見た目が急激に変化します。手術を受けられた方のなかには、こうした大きな変化をなかなか受け入れられなかった方もいらっしゃいますので、ゆるやかな変化の方が望ましいのかもしれません。

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SFAのデメリット

技術と経験が必要です

ここ数年で発達した方法であり、手術、歯科矯正ともにあるレベルの技術と経験が必要です。このためどこの施設でも受けられる治療ではありません。

保険がききません

現在、術前矯正を行わないサージェリーファースト・アプローチには、保険が適応されていません。このため手術、矯正治療のいずれも自費診療となります。

決められた間隔で矯正治療を行う必要があります

手術後は不安定なかみ合わせになりますので、指示された間隔できちんと歯の調整を行っていただく必要があります。間隔が開いたりした場合、よい咬合を作ることができないこともあります。
 

サージェリーファースト・アプローチの歴史 : 実は、SFAは新しい方法ではありません。1950年代までは、よく行われていた方法なのです。しかし当時は骨を固定するプレートもなく、細いワイヤーを使って固定していました。このため骨がうまくくっつかなかったり、あとからズレたりしてとても不安定な成績でした。その後、手術前に矯正を行っておくと術後のズレが少なく、成績が安定することがわかってきたために、現在の術前矯正を行うスタイルになりました。1960年代以降のことです。
 
台湾の施設から、術前矯正を行ったケースとSFAとの成績に関するレポートが、アメリカ形成外科学会誌に発表されました。最終的な成績に全く差はなく、全体的な矯正期間のみの違いだけだったと言うものです。(下記参照)

 

セカンドオピニオン

かみ合わせの改善については、さまざまなアプローチがあり、それぞれに長所短所があります。
このため手術方法、入院期間や費用などが異なってきます。
また手術を受ける方によって、手術のとらえ方や価値など(苦しい、楽、急ぐ、ゆっくり、高い、安いなど)が異なりますので、一概にどの方法がベストであるかを決めることはできません。
できれば、2~3カ所の専門医院でセカンドオピニオンをお聞きになった上で、最終的な治療方針を決定されることをお勧めします。

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